(このレジュメは下記のPodcastの収録時に使用したものです。音声と一緒にお楽しみください!)
基本情報の整理
Apple Musicが、提供楽曲において音質面での大幅な刷新を行なうと発表した *1
- 5月18日、アップル(米)は提供する音楽ストリーミング・サービス「Apple Music」において、6月からロスレス音源やDolby Atmosによる「Spatial Audio(空間オーディオ)に対応すると発表した。
- アップルは、当初は2000万曲、年末までに7500万曲以上がロスレス品質で聴けるようになると述べており「本物のオーディオファン向けに、Apple Musicは最大192kHz/24bitのハイレゾリューションロスレスも提供」するとも発表している。(ハイレゾロスレス再生には、USB-DACなど外部装置が必要。)
ストリーミング市場における競争の概観
収益面における評価は、Spotify以外はストリーミング単一事業業者ではないため、一概に論じることは難しい。ここでは、保有ユーザーという指標でSpotifyが群を抜いており「他を圧倒するSpotfiyと、それを追い抜こうとする他社」という構図の確認ができればよい。
ストリーミング市場における「高音質」競争 *7
音楽における品質(=音質)とは何か
今回の議題との直接的関係性は低いが、音質を論じる上では欠かせない前提でもある。最低限の確認をしておきたい。
音質をめぐる主な知見
- 音響工学:素材となる音をマルチトラックレコーダーに録音する技術の研究。録音だけでなく、空間設計などのアプローチから生演奏における音質も扱う。
- 機械工学・電気工学:記録する機器に関する技術の研究。
- 情報工学:近年ではデジタル信号化を行った上での録音が主流であるため、記録情報の管理に関する技術の研究も需要。
- 音響心理学:音響学の物理的パラメータに関連した心理学的学問。聴覚と心理のはたらきに関する科学分野。後述する「音楽を芸術作品として捉えた場合」に重要となる。
「記録」か「芸術」か *8
- 音楽を記録物として捉えた場合の音質は、原音忠実度が指標となる。ありのままを変えずにそのまま残すことが目的となり、原音忠実再生がその技術の目指すゴールとなる。
- 音楽を芸術作品として捉えた場合の音質は、現実をよりわかりやすく、あるいは意味深く伝えるために、必要な情報とそうでない情報の取捨選択を科学することになる。「現実が芸術に昇華するのであれば、原音を芸術的に正しく「取捨選択」することで、オーディオは「生演奏」よりも意味深く、高い芸術性を発揮することができ」る。
上記を踏まえ、今回の報道にあった技術名や、よく耳にするキーワードを確認する。
- ハイレゾ:High-Resolution Audio(高解像度)。例えばCDの情報量「44.1 kHz/16bit」に対し、ハイレゾは「96kHz/24bit」や「192kHz/24bit」が主流。→記録志向型
- ロスレス再生:可逆圧縮式で圧縮されたデータ。CDの約2/3の情報量で、質の劣化なしで再生することができる。ストリーミング・サービスで配信されている楽曲のほとんどは単なる圧縮音源を使用しており、これらはCDの約1/10の情報量で、質をできるだけ落とさないよう軽量化された状態で配信されている。→記録志向型
- Spatial Audio(空間オーディオ):自分を中心として、オブジェクトベースで音源の位置や距離を演算する。臨場感・没入感が高まる。→芸術志向型
⇔ チャンネルベース「ステレオ」「サラウンド」「デジタルサラウンド」(チャンネル数に合わせて音の聞こえ方を決める)
議題の設定
ストリーミング市場において「高音質」は競争力となるのか
「Apple Musicの新サービス提供はストリーミング市場の構図にどのような影響を与えるだろうか」を論じるとも言える。
- 論点① 高品質を売りにされたとき、消費者にはどのような反応があるだろうか
- 論点② 音楽市場における「高品質」は商品としてどの程度成立してきたか
- 論点③ ストリーミング利用者は、ストリーミングに何を求めるのか
※ 議論の対象範囲を確認し、円滑に進行するために、上記の論点を用意した。ただし「忠実にこの論点のみを論じよ」という制約ではない。参加者には、これらの論点から共起される新たな論点の提示に期待する。