(このレジュメは下記のPodcastの収録時に使用したものです。音声と一緒にお楽しみください!)
基本情報の整理
ストリートピアノとは
- ストリートピアノ(英: street piano)とは、街中・街角などの公共の場所に設置された誰でも自由に弾ける状態のピアノの通称。「音楽を通じて人と人のつながりを生み出す」といった趣旨を込めて設置されている。
- 「街角ピアノ」とも称され、鉄道駅に設置されるものは「駅ピアノ」、空港に設置されるものは「空港ピアノ」とも *1 。
- 2008年、イギリスのルーク・ジェラムが「Play Me, I'm Yours」というストリートピアノを設置する活動を開始した。日本国内では、2011年頃からまちづくり団体や自治体による地域活性、駅前を盛り上げようとする活動の一環として行われるようになった。現在では、国内に約50箇所のストリートピアノが設置されていると見られる *2 。
- ボランティア団体・自治体などが働きかけ、家庭で使われなくなったピアノや公共施設で更新のため余った古いピアノを駅や公共施設に設置する場合や、民間企業が広報活動の一環として設置する場合がある。映画のキャンペーンに既設や新設のストリートピアノが活用される事例も。
- ピアノ本来の色である黒色のまま或いは若干の装飾のみで設置されることもあるが、近隣の学生・生徒・児童などによる彩色が施されることもある。
設置されているピアノは一般的な物で有るため、定期的な調律やメンテナンスが必要であるが、企業が設置するもの以外は設置場所の管理者あるいはボランティア団体の協力により行われていることが多い。
ストリートピアノの社会的意義
- 街や駅などの空間の憩いの場としての機能を高め、にぎわいの創出を担う。
- ピアノという楽器の認知拡大、ひいては楽器や音楽への親しみを高めることにつながる。
- ヤマハ株式会社「ピアノをもっともっと身近に感じてほしい。そして楽しんでほしい。」「ピアノの前に座ったときのドキドキ感やワクワク感。拍手をもらったときの胸の高鳴り。そして、アイコンタクトから生まれる心が通じ合う瞬間と、あふれる笑顔。ピアノがあるとそのまわりでたくさんの気持ちが動き出します。」 *3
ストリートピアノを取り巻く問題
- ピアニストたちが、個人的な動画撮影のために長時間ストリートピアノを占拠する、大音量で弾く、楽器に対して大きな負担のかかる演奏を行う、コラボ(合奏)などによって通行人の邪魔になるような形でパフォーマンスが行われる、といった問題が起きている *4 *5。
- ヤマハLovePiano騒動:2019年1月、JR品川駅構内にヤマハ株式会社が設置していたストリートピアノの展示が突如中止となった。ヤマハは「安全管理上の問題」により展示を終了したと発表。公式には触れられていないが、ツイキャスの配信者 @ICCHY8591 さん(ツイキャスのサポーター13万人超、Twitterのフォロワー9万人超)がLovePianoを使ったパフォーマンスを行うと予告したことの影響が強いと見られている *6 *7。
- ピアニスト・榎本智史「ピアニストたちがこぞってストリートピアノでこれ見よがしに腕自慢大会をやったり、動画を撮って広報に利用したりという行動を取ることによって、ピアニスト側にその気が無くとも一般の人たちを萎縮させている現状があるのではないか」 *8
議題の設定
公的空間の上書きを検討する(ストリートピアノとバズりたいピアニストたち、あるいは「迷惑」とは)
この問題を「善意に基づいたシステムと、それを乱す不穏分子」「悪貨は良貨を駆逐する」構図で語るべきではない。その議論は、適切な規制の検討やモラルの低下を嘆くようなものになり、都市の発展性を検討するものではなくなってしまう。
ここで『Shibuya Hack Project』あるいは「ミリメーター」というクリエイティブな取り組みを取り上げたい。
Shibuya Hack Project
- 「自分たちの都市は、自分たちの手で書き換えていい。そんな“自由度”をつくること」というコンセプトのもと、新しい都市体験を渋谷につくろうとするプロジェクト。
- Shibuya:渋谷のまだ見ぬ潜在的資産・素材
- Hack:クリエイティブの力で潜在的資産・素材を実験的に活用し、編集する手法
- Project:多様なセクターの渋谷民とコラボレーションし形にしていく活動体
ミリメーター
- 公共空間を舞台に数々のプロジェクトを展開する建築家・アーティストのユニット。
- 台車やビールケースなど、街中で見かける既製品に「ご自由にお座りください」と印字したラベルを貼り付け、公共空間に「座る場所」を生み出すなど。
- 「都市の空間を“自分のもの”として取り戻す」「一人ひとりが“勝手にやる”ことの可能性を模索する」
「公的空間を上書きする」とは
- 文化人類学者・森明子(中部ヨーロッパ文化人類学)「公的・共的・私的」
- 彼女の概念を使って説明するならば「公的空間の上書きとは、公的空間に対して私的空間の余地を与え、そこを起点に共的空間を錬成すること」。ストリートピアノとは、その手続き手法であり、その行為の最中に発生するハレーションを「迷惑」と呼ぶのではないだろうか。
ここでは、迷惑を最小化しつつ、公的空間に共的空間をつくるためにはどうしたらよいか、を検討したい。