(このレジュメは下記のPodcastの収録時に使用したものです。音声と一緒にお楽しみください!)
基本情報の整理
現代の正しい音「平均十二律」
- 1オクターブを12等分し、各音間の周波数比が等しいもの。(2の1/12乗 ≒ 1.059463)
- 16世紀初頭に提唱され、19世紀なかばには一般化されたと言われている。
- 音楽表現のメリットが大きいだけでなく、ピアノの普及も背景にある。
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音律の起源は紀元前の古代ギリシアにまで遡る。「万物の根源は数」だとするピタゴラスが示した「ピタゴラス律」が起源。教皇グレゴリウス一世によって受容され、聖歌に使われるようになった。
ただし、オクターブの倍音は美しく鳴るものの、和音が発展する中世になると、音律の広すぎる長三度と狭すぎる短三度が問題となるため、音律の改善が求められた。
周波数の比が単純な整数比となる音律。ポリフォニーの聖歌に用いられた。3度(例:ドとミ)と5度(例:ドとソ)の響きが美しい一方、転調などができず汎用性に欠ける。15世紀後半ころには確立していた。
ポピュラー音楽と西洋音楽理論
- ロック、ソウル、レゲエ、ラップ、ダンス・ミュージックなど、現代的なポピュラー音楽は、西洋音楽とアフリカ音楽が合流した地点にあるといえる。
- 「かつて白人が使い古した西洋楽器をアフリカ系黒人が手にして、5 音 等間隔や 7 音等間隔で演奏したいところ楽器は十二平均律になっていて、そこからなんとか 自分の旋律を歌わそうとしてブルースが生まれた」
→南北戦争後に解放された黒人奴隷たちが西洋楽器を手にし、西洋の音楽理論を使いながら独自の音楽を発展させてきたという歴史がある。
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オートチューン
- 1997年に発売された「オートチューン(Auto-Tune)」は、アメリカのAntares Audio Technologies社が製造・販売する音声補正用ソフトウェア。平均十二律に則った音階に、歌唱のゆらぎを補正する機能を持つ。
- Daft Punk「One more time」やPerfume「ポリリズム」など、現代、ポピュラー音楽においてオートチューンを用いることは一つの技法として一般化されている。
- オートチューンの用い方には大きく分けて二つある。
1.表現としてのオートチューン
音程補正の速度をゼロに設定することで、不自然な音程の移行をするエフェクトとしての利用。
2.品質向上のためのオートチューン
レコーディングでミスをした時や、歌唱が曖昧な音程になっている際に用いられる利用方法。本来意図していた方法でもあるが、こちらは「ピッチ補正」と呼ぶ方が適切か。
- 2005年にT-Painがリリースした「I'm Sprung」が大ヒットしたことで、オートチューンが一般的なエフェクトとして使われるようになる。しかし2009年にはJay-Zが「D.O.A(Death of Auto-Tune)」をリリースして痛烈に批判。「ラッパーなら歌うな、言葉で戦え」という非難だった
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議題の設定
わたしたちはなぜ「正しい音」を求めるのか。
また、オートチューンは音階主義の現代どのような役割を果たしているか。
- 論点① オートチューン(ピッチ補正)批判からみる「肉声音階主義」
- 論点② カラオケは何故キツイか
- 論点③ どういう構造が私たちを西洋音楽理論に執着させているのか
※ 議論の対象範囲を確認し、円滑に進行するために、上記の論点を用意した。ただし「忠実にこの論点のみを論じよ」という制約ではない。参加者には、これらの論点から共起される新たな論点の提示に期待する。